内閣総理大臣認定 適格消費者団体 特定非営利活動法人 大分県消費者問題ネットワーク
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差止め・申入れ情報

スポーツ大会の大会規約条項の一部削除と内容変更を求める申し入れ書を送付した事例

1.問題となる条項

 大会エントリー規約(以下、「本件規約」という。)には、以下の条項があります。

① 本件規約2項

「競技中に発生した事故等についての応急処置は主催者で行うが、それ以後の責任は負わない。」

② 本件規約12項のうち下記条項

「なお、地震や風水害、降雪、事故など、主催者の責任ではない理由で大会が中止になった場合、参加料は返金しない。」

2.問題点

(1)本件規約2項について

 本件規約2項は、競技中に発生した事故について、応急処置を除いて主催者が責任を負わないという意味であると考えられます。

 しかし、消費者契約法8条1項1号は、「事業者の債務不履行により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除」する条項は無効であると規定しています。また、同法8条1項3号は、「消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除」する条項は無効であると規定しています。

 本件規約2項は、主催者の債務不履行責任及び不法行為責任に基づいて発生した協議中の事故等の場合(例えば、主催者の誘導ミスによってランナーが交通事故の被害に遭った場合等)にも、主催者の責任を全て免除するものであって、消費者契約法8条1項1号・3号に抵触するものといわざるを得ません。

(2)本件規約12項について

 本件規約12項は、主催者および参加者(ランナー)の責任ではない理由で大会が中止になった場合に、参加料を返金しないという意味であると考えられます。

 しかし、消費者契約法10条は、「消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたものとみなす条項その他の法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。」と規定しています。

 本件規約12項で定めるように、主催者及び参加者(ランナー)のどちらにも責任のない「地震・風水害・荒天・ 積雪・事件・事故・疾病等」の事由によって本件マラソンが中止となった場合に、その対価である参加料の支払いは、民法上、危険負担の問題として取り扱われることになります。そして、危険負担について定める民法536条1項は、「当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができる。」と規定しています。具体的には、当事者双方に責任のない理由で本件マラソンが中止となった場合、参加者(ランナー)は、参加料の支払いを拒むことができることになり、すでに参加料を支払った参加者は、本件マラソン契約を解除したうえで、主催者に対して、参加料の返還を求めることが可能と考えられます。

 民法536条は、任意規定であり、消費者契約法10条にいう「公の秩序に関しない規定」であることは明らかである。本件規約12項が適用された場合、参加者(ランナ ー)は参加料等の返還を受けることができないことになるため、本件規約12項は、民法536条1項定が適用された場合に比して消費者の権利が制限されることになります。

 また、当事者双方に責任がない理由で本件マラソン大会が中止になった場合に、参加者の登録等実際にかかった費用を超える場合でも参加料を一切返金しないことについて、合理的理由は見出せないことから、消費者の不利益は著しいものであり、民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものといわざるを得ません。

 以上より、本件規約12項は、消費者契約法10条に反するものとして無効であるといわざるを得ません。

 そこで、2023年(令和5年)2月17日、大会事務局に対して、申入書を送付しました。

3.成果・経過等

 2023年(令和5年)4月27日、実行委員会より、当団体から指摘のあった規約については、変更するとの回答書が届きました。

 2023年(令和5年)6月16日、事業者に対し、次回開催時の規約書の送付をお願いしました。

 2023年(令和5年)7月7日に、大会事務局より次回開催時の大会要項が届き、申入れに添った内容で改訂されていましたので、2023年(令和5年)9月8日に、「協議終了のご連絡」を送付しました。